トラくんが天使になった日






2001年 3月12日



半年位前からじょじょに変だなあとは感じていました
首の周りから始まったトラくんの脱毛が からだ全体に拡がり 
散歩してても足をとられて転んでしまうことも ありました

次の日には 又元気になり お散歩をせがむので いぶかしがりながらも
病院につれてくのを伸ばし伸ばしにしていました

出雲旅行の際に 預けていたペットホテルから戻ったころから
夜は大人しくなり いい子になって帰ってきたのかしらと思うほどでした

新世紀を迎えたあたりから 変だ変だを毎日言っていたような気がします

お散歩に連れてっても トラくんのやせた姿がせつなかった

数日前にトラくんのお父さんとお母さんが家にいらしたとき
妙ちゃんは 最後になりそうだと なんとなく感じていたので
トラくんのお顔を見てって欲しかった
なのに なぜかトラくんのオリに近づいてくれなかった



ほんの数日 天気が悪くて 閉じこもっていたトラくんが小屋からでてきたとき
もう絶対これはおかしい まともなトラくんじゃない

やせた体がますますやせ細って 足元がふらんふらんとおぼつかない
それでもお散歩行くんだと ひっぱるトラくん
心を鬼にして 引きとめ 家に戻す妙ちゃん
オリにはいろうとしないので 仕方なくせまい庭を一周する
変な声で泣きながら 穴を掘りだすトラくん

ごめんね こんなになるまで ほっといてごめんね
こんなに急に悪くなるなんて思ってもいなかった
訴える妙ちゃん 二郎さんもこの現実にもびっくりしたようだった

もう忙しいからなんて 言っていられない 絶対トラくんを病院に連れて行く
わかった 明日連れて行こう

その日 3月12日だった
税理士事務所の仕事が一年で一番の繁忙期だった

私たちは事務所で仮眠を取りながら 食事のときだけ家に戻る生活を続けていた
天気が悪いとお散歩が省略できるので 時間の節約になるとありがたがっていた
その何日かの間に トラくんが こんなに悪くなるなんて
仕事のめどがつくまで 待っててくれるもんだと勝手に思っていた

もう 獣医さんの診療の時間はすぎていたので
私たちは夕食の後 久しぶりの入浴を済ましてから
そのまま家で数時間寝て 事務所で仕事をかたずけ
トラくんは 夜が明けてから 病院に連れて行くことに決めた

夕食の片付け後 トラくんに少しでも食べて欲しいと思い好物をもっていこうとする
お母さんに 具合が悪いときは無理に食べさせないほうが良いと言われるが
いてもたっても いられなかった

オリの中に入り トラくんトラくんの大好きな○○だよ 犬小屋の前まで持っていく

トラくんは 妙ちゃんがそばに来たのがわかったらしく
犬小屋の中で寝ていたか休んでいたのを起き上がろうとした

自分で自分の体を支える力がもうない 起き上がれない
でも起き上がろうとする
頭を持ち上げようとする でも持ち上げることができない
犬小屋の内側で 頭が天井や側面にぶつかってカタンカタン乾いた音がしてる

尋常じゃない なにかがトラくんの身におきている

すると 吐いた 

小屋から外に下に吐しゃ物がはねる

もう 食べることはできない
食べるよりも何よりも 休ませることしかない

トラ出てくるんじゃない 寝てろ どなった 

どなってトラくんを置いて家に戻った 
私がそばにいると 起き上がろうとする

もう分かった トラくんは もう助からない 何もしてやれなかった
何もできない そう思うと情けなかった 涙が出てきた


部屋に戻ると二郎さんが風呂からあがっていた
話をしてもトラくんを見ていない二郎さんは分からない

トラが死ぬと決めつけないで 明日必ず病院につれていくから

じゃあ二郎さん庭にでて見てきたらいい みてくれば分かる とは言えない
久しぶりのお風呂 久しぶりの布団の上での睡眠だった
二郎さんにはゆっくり休んでもらいたかった


トラくんに思いをとられながらも 布団のやわらかさと暖かさに深い眠りについた


数時間後の次の日 午前三時頃 仕事に向うため 私たちは家をそっとをでた
夜中から降っている雪が積もっていた 
トラくんのオリの前にたち 犬小屋を覗いてみる
懐中電灯で照らしてみるが 暗くて良く分からない
あまり明るくすると トラくんが起きてきちゃうよ そうだね

雪がしんしん静かに降るなか事務所に向かった
きれいに降る雪だった 三月なのによっぽど気温が低かったらしい
誰も未だ通っていない道にサクサク足跡をつけながら歩いていった


仙台の雪は長く降り続くことはない
仕事を進めて 気がついたら夜が明けていた そして雪もやんでいた
大雪の次の日は 気温があがるはず


来客がある予定だったが トラくんのことが気になって 妙ちゃんだけ家に戻る

真っ白な雪が 朝の太陽に照らされて まぶしい

家に着くと真っ先にトラくんのところへ向かう
トラくんトラくん今日病院に行きますからね
あれ? オリのなかに入って 犬小屋を覗いてみてもいない
リードは? 犬小屋から伝っていくと

それは雪のかたまりに繋がっていた
雪を掃うとトラくんの縞模様がでてきた

トラくんは妙ちゃんの足元にいた
横になって 手足をのばしたままで倒れていた
お顔は 家の玄関の方角をむいていた

トラくんの体のすぐ下は土だったので 雪の降る前に倒れたらしい
苦しそうに目を口をあけている

あの時 妙ちゃんが怒鳴って静止したのも分からず
トラくんは 妙ちゃんのあとを追って最後の力をふりしぼって
犬小屋からでてきていたのだ
そして そのまま事切れて 横に倒れてしまった
そこに 雪が積もりトラくんの姿を隠してしまい 
仕事に行く時には気づかなかった

よくドラマでは飼い主の腕の中で眠るように息を引き取ったとかあるけど
数時間冷たい雪の中でほっとかれたトラくんに出る言葉は
ごめんねしかなかった

トラくんの首を抱きしめ ごめんねごめんねを言いながら体の雪を除けてやった
トラくんの体は かたかった
病院に連れて行くときに敷いてやるはづだったタオルで体を覆った

その日の午後 トラくんを車の後部座席に乗せた
リードなしで遊ばせることのできる名取市の犬専用の公園へ
トラくんを連れて行こうねと購入したミニバンだったのに
それが最初で最後になってしまった

途中 トラくんのお父さんとお母さんの家に寄って 一緒に出かける

ご両親は 最後までありがとうね と言って下さった
昨日の夜 なんだかしらないけどトラの写真がでてきてね
そういえば見てこなかったねぇ 今度は必ずよってこようねぇと話してたんだよ

トラくんはお父さんとお母さんの所にいっていたんだね

葛岡霊園に着いたが ここでは動物は焼けないと言われる
動物霊園の道順を案内してもらうが 妙ちゃんの様子があまりおかしいので
大丈夫ですかと尋ねられる

その日動物霊園では沢山の動物たちが 持ち込まれていた
今年はそして昨日はあまりにも寒かったので命を落としたペットたちが多かったらしい
順番で すぐには燃やせないので 後日受け取りに来ることにする

トラくんのおかげで半日つぶれたけど いい休憩になったかもと二郎さんは言った
しかしそのツケは後で大きく回ってくることとなり
その年の確定申告全てを提出し終わったのは 締切日が終わる15分前だった


その後七日間 トラくんが夢に出てきてくれるのを期待するが 一度もなかった


今はトラくんは葛岡霊園の動物共同のお墓にいる
お友達と一緒なのででさびしくないよね

トラくんのことだから 梅田川の河原を思いっきり走り回っているよ
トラくんそろそろ時間ですよと お迎えの人に言われてやっと気づいているね

トラくんは幸せだったかなぁ   きっと幸せだったよ

親父が犬好きだったからな 今頃親父にじゃれついているかも

ほらほら あの時のトラくんのお顔ったらさあ

そんなことをいいながら グラスを覗き込む妙ちゃんと二郎さんでした
しばらくは お酒の量が増えたかもしれません


そして思うのだ トラくんそろそろ生まれ変わってくれてもいいんじゃなあい
今度こそ 私たちの本当の子供だよ  きっと幸せにするからきっとだよ 



あなたに 愛される幸せと 愛する幸せを 伝えたいから  

約束するよ きっとだよ




散歩から帰ったばかりのトラくん

トラくんのいない庭先

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