トラくんの日記 |
1997年 夏 のある日
ぼくの名前は トラくんです。ミックスのオスのワンコです 茶色と黒のシマシマ模様の体が 干支の寅のようだと お父さんとお母さんに つけてもらった名前です 東京に行ったきりの息子の替りに 僕の事を10年間とっても可愛がってくれました 近所の職人さんたちも 仕事の合間に僕とよく遊んでくれました。 夏になると 梅田川の河原を思いっきり走らせてもらい 冬には 廃材を燃やす焼却炉のまわりでぬくぬく温まっていました でも 雨の日や雪の日は 嫌いなので お父さんが作ってくれた犬小屋の奥に引っ込んで むつけていました 僕の声は とても大きいので、よその人に吠えると ご近所迷惑だと よくお母さんに こんりゃとりゃあと、怒られていました。 なのに時々やってくる税理士の二郎お兄ちゃんには なぜか懐いてました お母さんの甥っ子なので なんとなく似ているからかもしれません ずっと この生活が続くんだと思っていました なんだか家の中がざわついています お父さんが病気になってしまい 職人さんの仕事が続けられなくなってしまいました 工場をたたんで 引っ越すことに決めたようです さて困ったのは 僕のことです 置いてくわけにはいきません 僕を飼ってもらえるところを 四方八方探してみましたが 雑種の成犬では 引き取り手が見つかりませんでした 僕 どうなるのかな 捨てられるのかな 僕は 二郎お兄ちゃんのところに いくことになりました 二郎ちゃんのお母さんが(お母さんのお義姉さんにあたります) うちには 室内犬がすでにいるし、庭は車が停まってて、狭いけど 二郎とお嫁さんの二人で飼うならいいよと言ってくれたのでした お嫁さんは ワンコ一匹の命を粗末にする者は 他人の命も 自分の命も粗末にします と言って トラくんを幸せにしようねと 約束したのでした それが妙ちゃんでした 二人とも マリア様みたいです 夏の暑い日に 僕の犬小屋ごと 二郎ちゃんのところへ引越しをしました はじめてのトラツク はじめての場所 はじめての はじめての はじめてのことばかり いったい何が起こったの 毎日毎日情けない声で泣いてばかりいました お父さんはどこにいったのかなあああん お母あさああああん 二郎ちゃんも妙ちゃんも心配して 夜中に何度も僕の様子を見に来てくれました トラくんが夜泣きするとね 近所の赤ちゃんも夜泣きするんだよ 大人しくしててね お願い といっても解らない ただ泣く僕ああんああん 妙ちゃんも犬を飼うのは始めてだったので なにかとオロオロして 近所のペットショップのオーナーに僕のことを診てもらいました 僕のことをとても良い元気なワンチャンだと誉めてくれました へへん 子犬は3日で慣れるけど 成犬は1ヶ月かかるよと聞いて そういえば 私がお嫁に来たばかりのとき 旦那様が優しければ優しいほど 不安だったなあ と ほんの2年前のことを懐かしそうに思い出しています 妙ちゃんは、楽しいことたくさんしようねと、 僕のことを毎日お散歩に連れてってくれます 行きは僕が全速力で走るので 妙ちゃんは汗ひ゛っしょりになります 帰りは僕は道草しながら歩くので 季節や町の遷り変わりを眺めながら トラくん、人もワンコも幸せになるために生まれてきたんだよ 子供の幸せを 願わない親など、いないんだけど でもねえ こう世の中が複雑になると なにが幸せか解りづらいんだなあ トラくんは 幸せかなあ 自分が幸せと思えることが一番だよ なんて 僕には良くわかんないことを話しかけています 今日のトラくんのご機嫌はどうだとか 今日のトラくんのご飯の食べ具合がどうだとか トラくんのおかげで洗濯物が増えたとか トラくんのお友達との近所づきあいの話とか そんな 会話が増えて、まるで赤ちゃんのいる家みたいだと喜んでいます 夏草の匂い 秋の枯葉の匂い 冬の雪だまり そして春の梅花の匂い いろんなことがあるね これからももっともっと幸せになれるね きっと きっと きっとだよ 約束だよ トラ |
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トラくんのお父さんとお母さんです | |||
仲睦まじい二人です | |||